そのお婆ちゃんとは7年前からのお付き合いである。最初は施設のスタッフと一緒に踊場の診療所に通っていたが段々と歩けなくなり,
数年前からは寝たきりの状態になったので在宅医療になった。
今年になってから食欲がなくなり顔が一回り小さくなり、1日のほとんどを寝て過ごすようになった。数日前から危篤状態だったが夕方に急な知らせが届いた。私に遅れてお婆ちゃんの長女が施設に着いた。長女の年齢は知らないがきっと私より年上である。「老衰と診断して書類を書きました」と長女に伝えた。「老衰..。素晴らしいわ」、うっすら涙を浮かべた顔がちょっとだけほほ笑んだ。今まで面と向かってそんなふうに言われたことのなかった僕は、予想外の言葉に一瞬驚いたが直ぐに暖かい気持ちになった。おばあちゃんは2月末で96歳になる。
病院では「老衰」でなくなることはなく、病院の医者は「老衰死」の診断書を書くことがない。少なくとも病院の勤務医だった頃の僕には書いた経験がない。家路についた車のラジオから「翼の折れたエンジェル」が流れていた。30年前に流行った曲である。30年前、お婆ちゃんは65歳だった。どんな感じの女性(ひと)だったんだろう?
65歳のお婆ちゃんに会ってみたかった。さようなら...。天国で僕の親父に会ったら「僕は元気でやっています」と伝えてください。
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